よっこねぇさん、とは、先日亡くなられた
新派の高橋よしこさんのことです。
この舞台は、2020年11月12日たった一日だけのものでした。
新橋演舞場の「八つ墓村」が突然中止になったのをはじめ、
それから御存じの暗黒の2年間が始まったその秋の、
私たちの沢山の思いが詰まった舞台です。
なかでも「湯島の春」は、
新派の十八番である「婦系図(おんなけいず)」のヒロインお蔦が、
薄幸のまま死ぬのではなく、なんとか治って元気なおばあさんになっていたら…
という私がずっと持ち続けていた妄想を描いたものです。
実際の「婦系図」の上演では、
師匠先代八重子のお蔦を数えきれないほど見つめながら、
自分は妖艶な仇役、河野すが子が持ち役としていました。
でも、私の脳内劇場の「死ななかったお蔦」は、「よっこねぇさん」でした。
思えばあれは、私が書いたつもりでしたが、
実は、私の頭の中で勝手に浮かんでは響くよっこねぇさんの「声」を、
そのまま「科白」として書き留めただけでした。
春の日の陽だまりのような、どこまでも天真爛漫な女優でした。
「むずかしいわ。わからないわ。まーくん(私のこと)大丈夫なのわたし?…」
そう言い続けながら、よっこねぇさんは、きらきらと輝いて、ひらひら舞い飛ぶように、
誰よりも楽しそうに舞台をつとめていました。
ぜひ、もう一度、私たちの誇りである女優高橋よしこの魅力を味わって下さい。
舞台っていいな。そう思って、心が洗われますから、かならず…。
齋藤雅文
(写真撮影:塚田史香)
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